先日、メキシコ中銀は新総裁就任後の初会合で政策金利の引き上げを実施しました。新総裁のレオン氏は完全なるタカ派の模様。インフレ圧力を押さえ込もうと積極的な姿勢を見せています。
では、なぜそこまでインフレ懸念が強いのでしょうか。背景にはアメリカの金融政策とメキシコペソ安の関係があるようです。
- メキシコ中銀の利上げ始まる
- メキシコ中銀が政策金利を上げるワケ
- 金融緩和でドル高ペソ安
- 対外債務の多さがネック
- トランプ政権の税制改革
- 緊縮財政で信用得ればペソ高も
メキシコ中銀の利上げ始まる
先日のブログでも書いた通り、メキシコ中銀は新総裁のレオン氏就任後の政策会合にて、0.25%の政策金利引き上げを決定しました。もっとも、この試みは利上げの「始まり」というのが市場の見方。緊縮財政に向けて、今後も利上げが続くとの見解が、経済誌の紙面を占めています。
というのも、今回の政策会合では5人中4人のメンバーが利上げを支持する意見であったことが判明したのです。さらに残りの1人に至っては、0.25%の利上げでは足らず0.5%の利上げが必要と主張していたのです。利上げの可否ではなく、もはや「利上げありき」で議論が行われていたのですね。
そんな背景もあって、新総裁のレオン氏も語気強く、インフレ懸念と利上げの必要性を主張しています。では、同氏とメキシコ中銀のインフレ懸念はどこからくるのか。過去の経緯と直近の事情を交えて解説したいと思います。
メキシコ中銀が政策金利を上げるワケ
メキシコ中銀が利上げを決めた理由は、いわずもがなのインフレ懸念です。本来的にメキシコのような新興国はインフレ圧力が強く、相応の緊縮策をとらねば経済が破綻してしまいます。その緊縮策が金利の引き上げによる貨幣価値の向上というワケです。
もっとも、悩ましいのは成長意欲との葛藤です。金利が引き上げられれば貸し出し金利も上がるので、企業や個人は資金を借りづらくなります。GDP成長率と政策金利はバーターであると思って良いでしょう。
それでも政策金利を引き上げなければならないのですから、相応の理由があります。今回は、少し過去の経緯を交えて、インフレ要因を解説したいとおもいます。
金融緩和でドル高ペソ安
ここ数年続いたメキシコのインフレ要因と言えば、量的金融緩和によるドル高ペソ安の流れです。バーナンキ・元FRB議長の頃から始まった量的金融緩和によって米株・米ドルが暴騰。その反面、メキシコペソのような新興国通貨は相対的に安くなるという状況が続きました。
資本の流出も加速。なにせ、メキシコ株よりもリスクの低い米国債権や米国株が買われるというのですから、投資妙味がありません。資本の流出により、メキシコペソの貨幣価値も下がるという状況が助長されました。
当然ながら、メキシコ中銀は緊縮策で対応。当時から利上げを行い、ペソ安に歯止めを掛ける政策を続けてきました。もっとも、金融緩和終了後もなかなか為替レートが戻らないという状況が続いています。
対外債務の多さがネック
さらにペソ安が進むと困る理由のひとつが、メキシコが対外債務のある国である点です。以前の記事でも書きましたが、メキシコの経常赤字は20億ドルに上ります。その赤字補填に使われるのが国債です。ただ、国債と言っても対外債務ですから利子も外貨建てになります。そのためペソ安が進んだ分の利払い負担が大きくなるのです。
これがまた、インフレ圧力となる驚異を持っています。本質的に貨幣価値=国の信用度であるので、破綻はないにしろリスクのある国の通貨は嫌われます。ペソ安、対外債務の負担増、リスク増加による信用低下、さらにインフレというネガティブスパイラルとなる恐れがあるのです。
念のためですが、市場参加者はこのリスクを百も承知です。飽くまで「リスク」であって、その現実化の度合いが高まった時や不安心理が働いた時にペソ安になりやすい。こういうメカニズムが働いています。
トランプ政権の税制改革
最後のインフレ圧力がトランプ政権の税制改革です。この記事を書いている、つい先日に法案が可決されました。
アメリカの税制改革法案が可決されるとインフレになりやすいのは、アメリカへの資本流出を起こす要因となりやすいためです。税制改革とはいうものの、実際問題としては企業優遇の税率引き下げ法案です。アメリカ企業が儲かりやすくなるので米国に再び資本が集まりやすくなることが目に見えています。
メキシコを含む新興国投資は、基本的に米国投資と対極にあります。メキシコ投資をする者としては、願わくばトランプ政権の新税制案が失策に終わり、ほどほどの景気刺激策で済んで欲しいところです。大失敗で不景気がくるのも困りますが・・・。
緊縮財政で信用得ればペソ高も
最後にメキシコ中銀の政策が成功するパターンを解説します。メキシコでは、2代前の財務相が主導の元、インフレと果敢に戦いました。結果、緊縮財政は成功し、新興国の中でも高い信用格付けを維持しています。
利上げで期待されることは、本質的には信用度の維持です。メキシコはインフレ懸念がない、メキシコペソは下がらないという強気のメッセージを市場に打ち出すことがペソ高を促すキーファクターです。
そのために必要なのが、さらなる政策金利の引き上げです。利上げが緊縮財政を示す何よりのキーワードですし、スワップポイントが上がれば資本が再び集まり始めます。特にキャリートレードが再び流行れば、ペソ円当たりは相当に上がるはずですね。
何はともあれ、来年以降の政策会合の結果に注目していきましょう。
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